ニューヨーク・フィルハーモニックはニューヨークを本拠に活動しているアメリカ合衆国最古の、世界でも指折りの長い歴史を誇るシンフォニー・オーケストラです。伝統的にとくに管楽器に名手を多く擁し、幅広いレパートリーに対応できる柔軟性を誇っている。
創立はウィーン・フィルと同じ1842年、この年の4月に「ザ・フィルハーモニー・シンフォニー・ソサエティ・オヴ・ニューヨーク」が設立され、同年12月7日にウレリ・コレッリ・ヒルの指揮のもとで初めてのコンサートが開かれた。1877年から91年までフィルハーモニーは後にシカゴ交響楽団の創設者となるセオドア・トーマスを常任指揮者に迎えた。トーマス在任中の1878年に現在のニューヨーク・フィルの前身のひとつであり、その当時はニューヨーク・フィルの強力な好敵手だったニューヨーク交響楽団がレオポルド・ダムロッシュの手で創設されている。
ニューヨーク・フィルのかつてのホームグラウンドだったカーネギー・ホールのオープンは1891年のことである。1893年には、アントニン・ドヴォルザークの交響曲第9番「新世界より」の世界初演を行った。ニューヨーク・フィルは1909年にグスタフ・マーラーを常任に迎え、演奏レヴェルの向上につとめた。1917年にはレコード録音も始まっている。ニューヨーク・フィルは1921年にナショナル交響楽団を、1923年にはニューヨーク・シティ交響楽団を吸収し、両オーケストラの吸収に伴いジョセフ・ストランスキーとヴィレム・メンゲルベルクのふたりが常任指揮者の地位を分け合う双頭体制がスタートした。
1925年からの2年間、ヴィルヘルム・フルトヴェングラーがフィルハーモニーへ集中的に客演している。ストラヴィンスキー「春の祭典」のアメリカ初演は、フルトヴェングラー指揮のニューヨーク・フィルである。1927年からアルトゥーロ・トスカニーニとウィレム・メンゲルベルクの双頭体制に代わり、1928年には最大のライバル、ニューヨーク交響楽団を吸収した。これによって名称は「ニューヨーク・フィルハーモニー交響楽団」となった。
1936年にトスカニーニがニューヨーク・フィルの常任を退き、その後任を当時まだ30代だったジョン・バルビローリが引き継いだ。バルビローリは清新な気風を吹き込んだが、いかんせん大カリスマの後では経験不足は否めず、オーケストラは低迷期に入る。1943年から47年にかけてはアルトゥーロ・ロジンスキーが常任のポストについている。
1958年、低迷する名門を救うべしという世論に応えるように、レナード・バーンスタインがアメリカ人で初めてニューヨーク・フィルの音楽監督となった。彼はコンサートの回数を増やし、楽員の雇用形態も安定させ、レコーディングも積極的におこなった。バーンスタインの華麗な指揮と明快な音楽解釈、そして何より豊かな音楽的才能は、この誇り高き扱いにくいオーケストラの楽員たちを、またたくまに手なずけた。彼のスター性と相まって、バーンスタインとニューヨーク・フィルとのコンビによるレコーディングやテレビ放送にも注目が集まり、ニューヨーク・フィルの黄金時代が到来した。1961年には本拠地をリンカーン・センター内のエイヴリー・フィッシャー・ホールに移転、楽団の名称が「ニューヨーク・フィルハーモニック」に改称された。
バーンスタインは音楽監督を退いた後も、桂冠指揮者としてこのオーケストラと密接な関係を保ち、最晩年まで演奏会での共演やレコーディングを重ねた。1960年代に完成させたマーラーの交響曲全集は、世界最初の偉業である。1969年にバーンスタインが音楽監督を辞任した後、ジョージ・セルが音楽顧問としてつなぎ、1971年から作曲家としても名高いピエール・ブーレーズが常任指揮者となった。ブーレーズは徹底してオーケストラを鍛え直し、合奏精度を著しく高めている。
その後、1977年からズービン・メータが音楽監督に就任した。ロスアンジェルス・フィルを躍進させた手腕に期待が集まったが、もうひとつその期待に応えきれなかった感は残る。1991年からはクルト・マズアが音楽監督となり、馥郁としたしなやかさと香りをオーケストラに与えた。とくに弦楽器のアンサンブルが向上している。2002年の9月から2009年までバーンスタイン以来2人目のアメリカ人指揮者としてロリン・マゼールが音楽監督を務めた。2009年からはアラン・ギルバートがその任にあたっている。
本拠地が豊かな残響のカーネギー・ホールから、音響の悪いエイヴリー・フィッシャー・ホールに移ったせいもあり、バーンスタインが音楽監督を退いてからは彼の時代ほどの名声を勝ち得ていないのが現状である。しかしながら、マゼールの音楽監督時代になってからは、前任者マズアがアンサンブルを鍛え直した成果もあって、すっきりした細身のアンサンブルながらかつての輝かしい音色を取り戻しつつあり、評価は再び高まりつつある。2005、06年のシーズンから、ドイツ・グラモフォンと提携してライヴ録音のインターネット配信を開始した。オーケストラによる新しい音楽媒体の利用法として、注目される。
|