チェンバロのコンサートに行かれたとき、お気づきの方も多いと思いますが、チェンバロはソロで弾くときも、常に譜面を見ながら演奏します。これはチェンバロ奏者が、暗譜が苦手だとかいうことでなく、むしろチェンバロでは暗譜が禁止されているからなのです。
ここでいう譜面を見ながら演奏というのは、ソリストなどの伴奏でピアノが譜面を見ながら弾くのとはちょっと趣が違います。ピアノの場合には演奏する曲はほとんど頭の中に入っていて、時おり譜面を見て確認するためですが、チェンバロの場合には譜面から目が離せないのです。
バロック作品でチェンバロは、書かれている通奏低音にそって毎回1つとして同じもののない即興で演奏を求められます。その際、もしも暗譜をしていたら、自由な即興性は生まれないというのがその理由です。
もうすこし説明を加えますと、バロック作品の通奏低音の楽譜には演奏のために音符の上または下に和音を指定する数字が付けられています。数字は、低音からの音程の度数を表すもので、3とあれば、低音の上3度の所に音があることを示されます。ただし、実際にそれらの音をどのオクターヴに置くかは演奏者に任され、演奏者は和声的に正しくなるように、4声や3声で演奏しなければなりません。当然、和声的な正しさだけでなく、音楽的に優れたものであることが要求され、自由な装飾を付けることも行われます。といったような深いワケがあったのです。
チェンバロはたとえ暗譜していても、楽譜を置いて弾くのが正式なスタイルだそうです。譜めくり人を置かない場合は、譜めくりの所作も含めてのパフォーマンスということになります。
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